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Teacher's Cafe

経済学部教員が綴る、情報マガジン。このコーナーでは、経済学部教員がリレー形式で、思いつくまま最近気になっているニュースや、お勧めの新刊、旅行記など、受験生や学部生に向けてのメッセージを発信します。

経済思想史・経済学史、都内書店案内

2010年7月7日
経済学科 石井信之

㈵ はじめに
最近のインターネットの発達(グーグル、ヤフーなどによる検索のグローバル化)、アマゾンによるグローバルな規模での書籍注文、iPad購入による紙媒体書籍の陳腐化など、パーソナル・コンピューター(PC)の普及がもたらした技術革新によって、学生さん達が書店に行くことは、想像を遙かに超える程、激減しているように思われます。紙媒体による旧来の書籍をめぐってPCがもたらした大きな利点と大きな欠点について、先ず、述べてみましょう。利点としては、検索機能によって、著者名、著書名、出版社などを手がかりとすれば、全世界のほとんどの著作について調べることが可能になったことがあげられます。更に、キー・ワードやキー・コンセプトを打ちこめば、興味・関心のある専門領域について、最新のものから最古のものまで文献を見出すことができます。また、目次や簡単な解説もネット上に載っているので、探求著作についてのおおよその概略がつかめることも事実です。しかし、小生は、以上の利点を認めた上で、大きな欠点についても述べたいのです。書籍についてのデジタル的インフォーメーションの蔓延によって、断片的な知識は集積されましたが、アナログ的発想に基づく、一つ一つの情報に関する奥深い思索ができなくなっているように思います。
アナログ的に狭く深く思考をすすめていくためにも、直接、書店に行って、紙媒体書籍にふれることが重要ではないでしょうか。専門書から教養書、娯楽書、雑誌に至るまで多くの書籍のページをめくりながら、ゆっくりとアナログ的に書物の良し悪しを見極めていくことが、以前にも増して不可欠のように思われてなりません。
以下、アナログ的書物探求に有効な都内の書店について紹介してみたいと思います。小生の専門領域である経済思想史・経済学史の著作を中心とするものとなりますが、紹介する新刊書・古書の書店はその他の分野における品揃えも充実しております。(青学大からJR、Tokyo Metro(TM)を使ってアクセスが容易な地域・場所について限定的に述べます。所要時間はどこも1時間以内と考えて良いでしょう。)㈼で都内大型書店、㈽で都内古書店について述べ、それぞれについて、経済思想史・経済学史の著作の品揃えの面から簡単なコメントを付けておきます。

㈼ 都内大型書店(新刊書)
1 新宿地域(TM副都心線・新宿三丁目下車)

  • 紀伊国屋書店新宿南店(新宿高島屋Times Square隣り)
    6Fに洋書、5Fに経済関係和書があります。洋書の英語経済書に関しては、かなりバラエティーに富んでおり、入門書から専門書まで、比較的に現代の経済事情との関連が 意識された品揃えとなっているようです。
  • 紀伊国屋書店新宿本店(JR新宿・東口)
    ここの洋書売場は上記の南店に比べ、品揃えは少ないのですが、和書の経済書は、略、ジャンル別に区分されていて、南店の5F売場よりも充実しています。
  • ジュンク堂(新宿三越内6F、7F、8F)
    経済書コーナー(6F)は、細かく分類されており、例えば、アダム・スミス、マルクス、ケインズというような三大経済学者は別々にまとめられており、探し易さでは群を抜いております。理論、政策、歴史、それぞれの細かい専門領域を探索することも可能です。(卒論やまとまったレポートの文献探しには好適の書店です。)

2 JR東京駅周辺

  • 八重洲ブックセンター(JR東京、南口)
    2Fに経済専門書、8Fに洋書コーナーがあります。2Fの和書経済書コーナーは新刊についてディスプレーしていますので、研究分野の最新の成果をはやく入手したい人にはおすすめの書店といえます。
  • 丸善丸の内本店(JR東京・北口・丸の内OAZO内)
    1Fに経済書コーナー、4Fに洋書コーナーがあります。経済書の新刊については、平積みにしてありますので、一目瞭然、その分野も最新の成果が見分けられます。

3 池袋地域(JR池袋下車)

  • ジュンク堂東京本店(JR池袋東口下車南寄り)
    ビル全体が本で一杯の本格的な大型書店です。経済和書に関しては品揃えは随一といっても良いと思います。残念なことに、洋書の専門書は皆無といっても良いでしょう。(BusinessやManagement関係のものは多少置いてあるようですが。)

4 神保町地域(TM半蔵門線、神保町下車)

  • 三省堂本店(靖国通り、駿河台下)
    経済和書に関してはテキストを中心として新刊の品揃えも良くおすすめできます。経済洋書に関してはEconomicsのテキストブックが中心です。
  • 東京堂(すずらん通り)
    経済和書は2Fにコーナーをもうけています。
  • 書泉グランデ(靖国通り)
    3Fに経済和書コーナーがあります。ある程度ジャンル分けして品を陳列しています。

㈽ 都内古書店
1 神保町地域(TM半蔵門線、神保町下車)

  • 崇文荘(靖国通り、駿河台下、ビクトリア前)
    小生が大学院生時代から利用してきた洋書店で、経済思想や経済学の古典や研究書についての品揃えでは日本有数のお店です。遠くヨーロッパなどにも買付けに行っているそうなので、原書の初版がどのくらいの相場かも聞けば判るかも知れません。本格的に小生の分野の研究をこころざそうという学生さんは、一度、行ってみることをおすすめします。
  • 篠村書店(靖国通り、専修大寄り)
    経済思想史・経済学史の専門書の品揃えでは、後述する都丸書店と双壁です。
  • 北澤書店(靖国通り、専修大寄り)
    1Fが幼児書売場で2Fに洋書コーナーがあります。小生の大学院時代には小生の分野の古書が充実していました。現在も有名な古典の品揃えでは充実しています。
  • 大島書店(三省堂本店側、すずらん通り入口)
    ペイパーバックス洋書を中心にEconomics、Philosophy、Literatureなどの専門書が置かれています。偶に、新刊の経済学洋書がはいることもあります。値つけは可成り安くつけてくれておりますので、小生は1カ月に1度位は定期的におとずれています。

2 高円寺駅側(JR高円寺下車)

  • 都丸書店(JR高円寺に隣接)
    1Fが和書、2Fの回廊部分が洋書となっています。特に、小生の専門分野の古書に関しては和書、洋書に関しては、品揃えで、崇文荘とともに一番といって良いでしょう。

3 高田馬場早稲田通り(TM副都心線、西早稲田下車、徒歩5〜10分)

  • 30数軒の古書店が早稲田大学に行く通りの両側に並んでいたのですが、現在は激減してもうこれだけの数はないと思います。

4 東大本郷通り(TM丸ノ内線、本郷三丁目下車)

  • ここも3と同じく、現在、経済思想史・経済学史に関係のある数軒の古書店があります。

5 都内デパート古書市(古本市)—新宿京王古本市(春、夏の二回開催)

  • 以前は掘り出し物もあったのですが、現在は、ほとんどなくなってきています。池袋のサンシャインシティでも、春・夏に大規模な古書市が開催されています。

㈿ おわりに
経済思想史・経済学史の研究においては、原典(一次文献)と研究書(二次文献としての単行書と研究論文の類)に二大別されますが、以上に述べてきました大型書店、古書店などに行って、直接、文献を手に取って一覧することをおすすめします。その場合、是非ともして頂きたいことは、文献として読解・研究に値するかどうかを見極めることです。和書の場合には、目次をみてから、参考文献のとりあげ方、注のつけ方(引用注・補足注の両面)、索引の有無などを検討することが目安になります。洋書の場合には、Name Index、Subject Indexが詳細か否かが目安となるでしょう。これらの見分け術は、普段、暇があったら、足繁く書店に通うことによって自然に養われることなのです。スポーツの技能も反復練習と様々の工夫によって次第に身についていくものです。経済思想史・経済学史の専門書の優劣の見分け方もこれと同じことなのではないでしょうか。

㈸ 余談(時間・空間の使い方)
学生の皆さんは、学校の往復の通学時間をどのように使っていますか。小生は、自宅のある千葉県松戸市の最寄りの駅からTM表参道までの通勤時間が約1時間10分程度ですので、JR・TM千代田線の所要時間約40分程度を、読書時間に使っています。読む本は、小生の専門の学史・思想史の専門書(英語・フランス語)です。長年の蓄積がありますので、多少判らない単語があっても、なんとか内容は理解できます。以上のことを踏まえて、小生なりの経験から得た些細なアドヴァイスをしたいと思います。専門分野については、例えば、アダム・スミスについても、易しい本から難しい本まで、同じ内容について「重ね読み」することをおすすめします。同じ研究分野(内容)について、容易な本から難解な本まで読み重ねていくことを通じて、何がその分野で重要な問題(論点)なのかが判って来ます。そして、それらの問題点については自分の言葉で論理的に文章化することが大事です。常にメモを手許に用意しておき、書き留めておくことも重要です。良いアイディア(思いつき)もその時にキチンと書き留めておかないと消え去ってしまいます。小生は、JRやTMの空間をmoving study room(「動く研究室」:日本語英語です)と呼んで、有効に活用しています。皆さんも是非、小生のこのつたないアドヴァイスを生かして、貴重な青学大の時・空間を無駄遣いしないようにして下さい。「少年老い易く学成り難し」、”Time flies like an arrow”、”Time waits for no one” (The Rolling Stonesの名曲の題名)ということを常に心に留めて勉学に励んでくださることをお祈りします。